2024年8月1日のAI Actの発効は、欧州における人工知能規制の転換点となりました。革新的な企業や知的財産の専門家にとって、この新たな規制が特許権に実際にどのような影響を及ぼすのかという重要な問いが生じています。一般に考えられているのとは異なり、その答えは見かけ以上に微妙なものです。
AI Act:代替ではなく補完の規制枠組み
AI Actは、正式には「人工知能に関する欧州規則」と呼ばれ、AIに関する世界初の包括的な規則です。しかし、AI Actは既存の特許法を直接改正するものではありません。フランス情報処理・自由全国委員会(CNIL)が最初の質疑応答集で明らかにしたとおり、AI Actは「GDPRを置き換えるのではなく補完する」ものであり、同じ原則が知的財産法にも当てはまります。
この規則は主として、リスクの水準に応じたAIシステムの分類、透明性および適合性に関する義務、ならびにAIシステムのガバナンスと監視に焦点を当てています。特許法の基本原則には手を触れていません。
欧州特許庁(EPO)が定める特許性の要件は変わりません。発明は引き続き、先行技術に対する絶対的な新規性、非自明性によって特徴づけられる進歩性、産業上の利用可能性、そして技術的性格を備えていなければなりません。数十年にわたって検証されてきたこれらの要件は、引き続き特許による保護の礎石です。
AIの特許性をめぐる根強い課題
人工の発明者という問題:決着のついた議論
DABUS(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)事件は、国際的な判例に決定的な影響を与えました。Stephen Thaler博士は、自身のAIシステムを、フラクタル構造を有する食品容器と光による信号装置という二つの発明の単独の発明者として認めさせようと試みました。
主要な機関が下した判断は全会一致であり、覆る余地はありません。欧州特許庁は、2021年12月21日の決定J 0008/20およびJ 0009/20において、自然人のみが発明者として指定され得ることを明確にしました。英国最高裁判所は、発明者が「自然人」であることを明示的に要求するPatents Act 1977に依拠しました。また、米国連邦巡回区控訴裁判所は、2022年のThaler v. Vidal判決において、「individual」という語は自然人のみを指し得ると判示しました。
この一貫した判例は、根本的な法的現実を反映しています。すなわち、法人格を持たないAIシステムは、権利を保有することも移転することもできないのです。この法的な無能力は、欧州特許条約の意味における発明者として認められるうえで、乗り越えがたい障害となっています。
AI関連発明の特許性の要件
欧州特許庁の審査ガイドラインによれば、AI関連発明は、ABS制御や映像圧縮のように直接に技術的効果を生じさせる場合、メモリやプロセッサの負荷といった計算資源を管理する場合、または特定の技術的考慮に基づいて設計されている場合に、特許性の閾値を越えます。
欧州特許庁が付与した欧州特許EP3989126 B1は、これらの要件をよく示しています。この発明は、ガンマ線スペクトルにおける放射性同位元素の自動識別のための畳み込みニューラルネットワークに関するものです。この発明が特許を受けたのは、医療分野における現実の技術的課題を解決し、具体的な文脈でAIを応用し、使用するニューラルネットワークのアーキテクチャを正確に定義しているからです。
AI Actが特許実務に及ぼす間接的な影響
透明性要件の強化
AI Actは、その第13条に基づき、高リスクAIシステムについて実質的な透明性の義務を課しています。この要件は、逆説的ながら、イノベーションを特許審査官にとってより理解しやすいものにすることで、特許性の評価を容易にする可能性があります。特許出願における技術的な記載が改善され、発明が人間によるものであることの立証も容易になります。
この透明性の向上は、企業にとって諸刃の剣です。一方では、より充実した正確な文書を提供することで、特許の基盤を強化することができます。他方では、企業が競争戦略上秘密にしておきたかった情報を明らかにしてしまうおそれがあります。
文書化とトレーサビリティの強化
AI Actが第11条で詳細に定める文書化の要件は、企業がイノベーションのプロセスを記録する方法を変えつつあります。この強化された文書化は、創作のプロセスを跡づけることで進歩性の立証を容易にし、技術開発の正確な時系列を確立し、発明プロセスへの人間の関与を反論の余地なく示すものです。
この変化は、AIの支援を受けた発明における人間の貢献の立証について、特許庁の間で高まりつつある懸念に応えるものです。AI Actが要求する詳細な文書化は、こうした本質的な人間の貢献を示す具体的な証拠として役立ち得ます。
開示のジレンマ
AI Actが課す透明性の義務は、革新的な企業にとって真の戦略的ジレンマを生み出しています。一方で、規則はAIシステムの機能に関する一定の情報の開示を求めています。他方で、特許による保護のためには、出願前に秘密を維持することが必要な場合があります。
この緊張関係により、企業は知的財産保護のスケジュールを見直すことを余儀なくされています。企業は今後、規制への適合の要請と知的財産戦略との間で繊細に均衡を図り、特許出願の適切な時期を見極め、早すぎる開示のリスクを評価しなければなりません。
革新的な企業にとっての実務上の課題
横断的なコンプライアンス:組織上の大きな課題
企業は今や、三つの制度が重なり合う複雑な法的環境の中で活動しています。AI Actは、システムの分類とリスク評価を課しています。特許法は、特許性の要件と従来の保護戦略を維持しています。GDPRは、AIが利用する個人データの保護を引き続き規律しています。
このような規制の重なりは、法務、研究開発およびコンプライアンスの各チームが緊密に関与する横断的なガバナンスを必要とします。技術上のあらゆる判断が規制面で多様な影響を及ぼし得るこの新たな状況においては、従来の組織の縦割りは逆効果となります。
リスクの水準に応じた保護戦略
高リスクに分類されるAIシステムについては、企業は特許の作成にあたり透明性の義務をあらかじめ考慮しなければなりません。こうした先回りの対応には、イノベーションへの人間の関与を入念に文書化すること、そして開示要件が産業上の秘密に及ぼす影響を事前に評価することが含まれます。
限定的リスクのAIシステムは、規制面でより柔軟性があり、従来の戦略に沿って知的財産の保護を最適化することができます。とはいえ、こうした場合であっても、規制の解釈の変化を継続的に注視することは欠かせません。
事例研究:Inariの出願が直面した困難
Inari社が行った特許出願WO2023250505は、AI分野における特許性の現在の落とし穴をよく示しています。この出願は、遺伝子改変が農業形質に及ぼす影響を予測するための「機械学習モデル」の利用に関するものです。
この出願を分析すると、この分野で繰り返し見られるいくつかの問題が明らかになります。請求項は機能的かつ一般的な用語を用いており、保護の範囲が不確かで評価しにくいものとなっています。欧州特許庁により「取り下げられたものとみなす」とされた出願の手続上の状態は、同社が特許性の要件を満たすうえで直面した困難を物語っています。
この事例は、正確な請求項を作成し、AI関連発明の技術的性格を明確に定義することがきわめて重要であることを示しています。また、AIの特許性の微妙な論点を乗り越えるためには、専門的な法的知見が必要であることも浮き彫りにしています。
今後の展望と進行中の改革
世界知的所有権機関(WIPO)は現在、特許法におけるAIの影響について踏み込んだ協議を行っています。この作業では、AIが生成した発明への特許性要件の適合、AIによる創作に特有の新たな権利の創設の可能性、各国実務の国際的な調和など、いくつかの改革の方向性が検討されています。
AI Actに体現される欧州のAI規制のアプローチは、知的財産に関する規則の将来の世界的な調和のモデルとなる可能性があります。AI Actにおける透明性と人間の責任の重視は、すでに他の法域における特許法の発展をめぐる議論に影響を与えています。
将来に向けた戦略的提言
企業は、AI Actが既存の特許ポートフォリオに及ぼす影響を評価するため、必ずコンプライアンス監査を実施すべきです。この評価には、イノベーション部門のチームに対する新たな規制要件の研修、そしてAI Actの制約を出願手続に組み込むための社内プロセスの見直しが伴わなければなりません。
絶えず変化するこの分野における解釈と判例の動向を追うためには、積極的な法務モニタリングが欠かせません。産業財産権弁理士(conseil en propriété industrielle)もまた、透明性の要件に応えるよう明細書作成の戦略を更新し、横断的なコンプライアンスの管理においてクライアントを支援し、規制と判例の動向について継続的な研修を維持することで、その実務を適応させる必要があります。
イノベーションと規制の新たな均衡に向けて
AI Actは特許法に革命をもたらすものではありませんが、全面的に見直された戦略的アプローチを必要とする複雑な規制環境を生み出しています。革新的な企業は今後、従来の特許性の要件を引き続き遵守しつつ、AI Actの適合要件を自らの知的財産戦略に組み込まなければなりません。
主な課題は、透明性を賢明に管理することにあります。イノベーションの保護を損なうことなく、AI Actの義務をいかにして満たすか。その答えは、法務、技術およびコンプライアンスの各チームの連携したアプローチと、発展途上にあるこの分野に特化した専門的知見による支えにあります。
この新たな規制の状況においては、文書化の質と人間の関与の立証が、知的財産権を確保するための重要な要素となります。AI Actは乗り越えがたい障害であるどころか、適切な手段と的確な法的知見をもって取り組むならば、保護戦略を強化するための梃子ともなり得るのです。
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