14 5月 2021

寄稿:ワクチン特許の解除よりも既存の職権実施権の活用を

Tribune I Levée des brevets des vaccins : et si on s’appuyait sur ce mécanisme de licence qui existe déjà?



研究から生まれた発明の実施について20年間の一時的な独占権を与えることでイノベーションに報いることを目的とする特許は、政治的言説において話題にのぼることがまれです。ところが、5月5日のバイデン政権による発表以来、特許の解除という主題が公の議論の中心に躍り出ました。この発表は、南アフリカの主導により世界貿易機関(WTO)で生まれた、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に関連する知的財産権の一時停止の提案を支持するものです。

特許は何のためにあるのか

特許は、とりわけその製法の秘密を守ることによって「ビッグファーマ」の株主の懐を潤すための道具として戯画化されることが少なくありません。しかし実際には、特許は研究を奨励するための手段であり、とりわけ研究開発(R&D)投資の回収を目的とするものです。

特許とは、行政機関(すなわちフランス産業財産庁(INPI))によって付与される、発明を対象とする財産権であり、その特許が保護する発明と引換えに、20年間、当該発明についての独占権を認めるものです。言い換えれば、よく耳にすることとは逆に、特許はいかなる秘密も保証するものではなく、公開されるものである以上、研究の普及を可能にするものです。

したがって、特許の解除は、公的研究への投資をはるかに上回る民間研究への投資を萎縮させることになります。こうした萎縮は、少なくとも同様の状況(たとえば新たなワクチンを必要とする変異株を伴うパンデミック)において現れるでしょう。さらに、本件においては、特許は現時点ではワクチンそのものではなく、パンデミック以前に発明され、もっぱら民間投資に由来する製造方法(メッセンジャーRNAなど)に関するものです。最後に、特許は多国籍企業ではなく中小企業によって保有されていることが非常に多く、たとえばBioNTechやModernaがその例です。

特許の「解除」とWTOにおける知的財産の一時停止

WTOでは、2020年秋以来、現在のパンデミックに関連する知的財産権の一時停止の可能性について議論が続いています。「特許の解除」という言い方も耳にしますが、実際には特許だけでなく、知的財産権全体が対象とされています。
したがって、この一時停止は、少なくとも原則として一時的なものとはいえ、収用にあたります。すなわち、COVID-19に関連する知的財産、主として特許に、誰もが無償で(つまりロイヤルティを支払うことなく)アクセスできるようにするものです。
さらに強調すべきは、南アフリカを筆頭とする一部の国々が求めている一時停止は、各国が国内レベルで行動することを強いられる事態を避けることのみを目的としている点です。実際、WTOにおけるこのイニシアチブは、収用そのものよりも、意思決定を国際レベルへと移すことを目的としています。それにより、各国が個別に行動することを強いられ、製薬産業が自国の領域から逃げ出すおそれを負う事態を避けようとしているのです。
実際、特許権者の収用は、フランスの国際的な約束に適合しません。フランスは、WTOの枠組みにおいて、TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)に署名しているからです。同協定は、厳格な条件を遵守することを留保して、特許の使用を制限する可能性を定めています。各国は、同協定に従ってこの趣旨の規定を設けることは自由ですが、収用を定めることはできず、一定の条件のもとでの制限のみが認められています。こうして、フランスでは、フランス知的財産法典が職権実施権(licence d’office)の制度を設けており、これにより、公衆衛生の利益が必要とする場合に、国家が特許へのアクセスを容易にすることができます(フランス知的財産法典L.613-16条)。

見過ごされている真の問題:職権実施権の手続が開始されていないこと

結局のところ、共和国大統領をはじめとする行政府全体が、知的財産の一時停止に反対するか賛成するかにとどまり、わが国の実定法に存在し、ワクチンの製造を容易にしうる職権実施権の仕組みを知らないふりをしている理由は理解しがたいものです。
この職権実施権により、国家は、権利者(たとえば特許権者)との間で自ら交渉した最低限のロイヤルティと引換えに、知的財産へのアクセスを与えることができます。
職権実施権が実施されていないことは驚くべきことです。職権実施権はわが国の実定法に存在しており(フランス知的財産法典L.613-16条)、TRIPS協定(第31条の2)にも適合しているからです。国家がこの手続を実施し、製造業者との間でおそらく平常時よりも低い水準のロイヤルティを交渉したうえで、希望するすべての製造業者にライセンスを付与することになるでしょう。そうすることで、国家は、生産の用意があるすべての者に製造を開放することにより、その管理の対象を流通から生産へと移すことができます。このようなライセンスにより、研究への報酬と公衆衛生の利益との均衡を維持することができるのです。
もっとも、このようなライセンスの付与を目的として去る4月8日に元老院に提出された議員立法案により、この嘆かわしい政府の不作為が(ようやく)補われる可能性があることを付言しておきます。

本寄稿はChallenges誌に掲載されました。

Auteur : Dhenne Avocats.