15 4月 2021

論説:Covid-19ワクチンと職権実施権の実像

Tribune I Vaccins anti-Covid et licence d’office : de quoi parle-t-on ?



極度の公衆衛生上の緊急事態において、公衆衛生の利益のために職権実施権(licence d’office)を付与することを目的とする法律案が元老院に提出されたばかりのいま、職権実施権をめぐる公の議論を汚す誤った情報は、とどまることなく広がり続けています。この議論を健全なものとするため、いくつかの点を明らかにしておく必要があると考えます。

「特許は問題ではない」

行政府は、特許は「問題ではない」と主張しています。言い換えれば、ワクチンの製造を妨げる特許は一つもないというのです。

確かに、現時点では、ワクチンそのものを直接の対象とする特許はまだ一件も付与されていません。特許が付与されるには、あらかじめ行政機関に出願を行い、その行政機関がおよそ2年にわたる手続の中で審査を行う必要があるからです。

しかしながら、付与された特許が存在しないことは、ワクチンの製造の障害となり得る特許が存在しないことを意味するものではありません。

第一に、特許権の起点となるのは特許出願であって、その付与ではありません。出願の時点から、侵害訴訟を提起することが考えられます。

第二に、ワクチンの製造には様々な方法が用いられ、それらの方法はパンデミック以前から存在し、特許の対象となっている可能性があります。例えば、メッセンジャーRNAや脂質ナノ粒子がそうであり、これらについてはBioNTech及びModernaが多数の特許を保有しています。同様に、オックスフォード大学は、Astra Zenecaのワクチンに用いられている組換えDNA技術に関する特許を保有しており、同大学はAstra Zenecaに対して独占的ライセンスを付与しています。さらに、パンデミックの間は自社の特許を行使しないというModernaの表明は、権利の放棄を意味するものではありません。Modernaは何も放棄していないのであり、それどころか、同社のみが定める条件の下で特許技術へのアクセスを認めることにより、まさに自らの権利を行使しているのです。

とはいえ、特許は、その教示を実施するために不可欠なノウハウがなければ役に立たない可能性があります。このノウハウは、とりわけ販売承認(AMM)の取得に向けた申請書類を作成する際に必要となります。もっとも、政治的意思の欠如を別とすれば、職権実施権が特許のみならず、その実施に必要なノウハウにまで及ぶことを妨げるものは何もありません。

「適切な産業能力の不足こそが問題である」

行政府は、フランス国内での充填(バイアル詰め)が「生産」に相当すると主張し続けていますが(実際には、充填は生産の第四段階、すなわち包装にすぎません)、同時に、有効成分を製造するための「産業能力」の不足を強調しています(有効成分の製造は生産の第一段階であり、最も重要な段階です)。

第三者の特許が特定の技術の使用を独占しているために実施の自由を有しない事業者が、そのような能力を獲得するための投資を行わないであろうことは、ほとんど疑いがありません。

そして、仮に特許が生産を妨げないというのが真実であるとしても、フランスには必要な「産業能力」がない、あるいはそのような能力を構築するには時間がかかりすぎる、又は複雑すぎるという考え方そのものが、分析に耐えるものではありません。医薬品生産の専門家でなくとも理解できることですが、ここでもまた、政治的意思があれば不可能なことは何もありません。そして、仮に時間がかかるとしても、それは雇用を生み出すと同時に、ワクチンの更新や他のパンデミックへの備えにとっても有益なものとなるはずです。

「特許の放棄」と「人類の共有財産」

いまや議論の中心となっているこれら二つの言い回しは、とりわけ議会の極左勢力において、職権実施権と体系的に結びつけられていますが、いずれも特許制度の実態には合致していません。

いずれの場合も、特許の収用を指すものです。誰もがワクチンを生産できるように、「特許を放棄」させる、あるいは特許を「人類の共有財産」にすべきだというのです。しかし、そのような収用は、世界貿易機関(OMC)の枠組みにおいて署名されたTRIPS協定(Traité sur les ADPIC)に基づくフランスの国際的な義務に反することになります。同協定は、特許権者の許諾を得ない特許の使用を規律しています(第31条)。したがって、同協定の適用上、特許権は制限することはできても、否定することは決してできません。言い換えれば、TRIPS協定は、特許を「人類の共有財産」に変えるような「特許の放棄」から生じる収用を妨げているのです。

もっとも、危機の解決に資する特許の効力を失わせるため、Covid-19パンデミックに固有の例外を設けることを目指した協議が、世界貿易機関において進められています。しかし、この協議は一部の国の反対により行き詰まっています。いずれにせよ、実質的に一種の「特許の放棄」を目指すそのような例外は、特許制度の基本構造に照らして正当化することが困難であるように思われます。技術的教示を一時的に独占することを可能にする特許権は、何よりもまず研究に報いるためのものです。しかしながら、特許権は、あらゆる権利と同様に、その基礎となる制度の均衡を確保するための制限を伴っています。特許権は無制限の所有権ではなく、職権実施権は、権利の濫用を防止しつつ、特許権者に対して常にロイヤルティを保障する調整メカニズムであり、このロイヤルティによって研究に公正に報いることが可能となります。言い換えれば、職権実施権の仕組みが実際に機能するという条件の下で、この仕組みだけで、公衆衛生の利益と研究の促進との間に生じ得る不均衡を是正するのに十分なのです。

結局のところ、いずれにしても、ワクチンの製造過程において特許の重要性を軽視することはできません。4月8日に元老院に提出された法律案によって、ワクチンの生産と充填とを混同することがなくなり、問題の核心である有効成分の製造に目が向けられ、ひいてはフランスが、かつてマクロン大統領が約束した産業主権をついに獲得できるようになるかもしれません。

Auteur : Dhenne Avocats.