25 3月 2020

論考:新型コロナウイルスをめぐる特許戦争は検査の妨げとなっているのか

Tribune I Coronavirus : une guerre des brevets freine-t-elle les dépistages ?


中国では中国政府とGilead社(「Remdesivir」の製造元)との間で特許戦争が始まろうとしていますが、最近、米国の一部メディアは別の恐ろしい話を伝えています。ある企業が特許侵害訴訟を提起し、それによってBioFireおよびbioMérieuxによる検査キットの近日中の販売が危うくなりかねないというのです。

「パテント・トロール」(特許を取得し、それを実施する可能性のある者に対して行使することで利益を得る事業体)と呼ばれるLabrador Diagnostics LLCは、Theranos Inc.から譲渡された2件の米国特許を保有しています。

2018年、Theranosは、SoftBankの資金提供を受ける巨大なパテント・トロールであるFortress Investment Groupに自社の特許を譲渡しました。要するに、SoftBankがFortressに資金を提供し、FortressがTheranosの特許を買い取ったうえでペーパーカンパニーであるLabradorを設立し、そのLabradorが、Covid-19のパンデミックのさなかに、Covid-19検査キットの製造を目指す企業(BioFire Diagnostics, LLCおよびbioMerieux SA)を、当該検査キットがこれらのTheranos特許を侵害すると主張して提訴し、米国内における製造の暫定的な差止めを裁判所に求めることを決めたとされているのです。

米国の著名な教授であり、Stanford Law Schoolのプログラムのディレクターを務めるMark Lemleyは、3月16日のツイートにおいて、「これは史上最も唖然とさせられる知的財産の組み合わせかもしれない」と述べています。

もう一つの事実

特許批判論者にとっては残念なことに、そしてCovid-19との闘いにとっては幸いなことに、報じられた話は控えめに言っても不正確であり、誤りであるとさえいえます。実際の経緯は、FortressがTheranosの特許を取得した2018年に始まります。2020年3月9日、Labradorは、FortressがTheranosから取得した米国特許をBioFireおよびbioMerieuxが侵害していると主張して、両社を特許侵害で提訴しました。この特許侵害訴訟はCovid-19検査キットに関するものではなく、過去6年間における被告らの活動を対象としており、それらの活動はCovid-19の検査とは一切関係がありません。

特許侵害で提訴された2日後の2020年3月11日、bioMérieuxは、「Covid-19の流行と闘い、この新興感染症との闘いにおける医師および保健当局のさまざまなニーズに応えるため」、3種類の検査キットを近く発売すると発表しました。

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bioMerieuxが3月11日にこの発表を行うと、FortressとLabradorは、SARS-CoV-2の検査キットの販売に取り組む企業を大胆にも提訴したとして、インターネット上で格好の攻撃対象となりました。こうして両社は、深刻な公衆衛生上の危機に乗じて利益を上げようとする悪質な「パテント・トロール」として、たちまち糾弾されることになったのです。

真面目に考えてみましょう。BioFireとbioMérieuxが提訴の2日後にCovid-19のパンデミックと闘うための検査キットの販売に取り組んでいると発表することを、Labradorはどうして知り得たというのでしょうか。また、問題の特許を侵害する可能性のある別の無関係な活動を理由に提訴されているのであれば、両社がSARS-CoV-2の検査キットの販売に向けた取組みを進めていることに、どのような違いがあるというのでしょうか。

無償ライセンス……

原則として、パテント・トロールは一切の譲歩をせず、特許技術を無償で利用可能にする無償ライセンスを提供する習慣などありません。むしろその逆です。

ところが、この真偽入り混じったスキャンダルにもかかわらず、LabradorはBioFireとbioMérieuxがSARS-CoV-2の検査キットの販売に取り組んでいることを知るや否や、被告らに対し、援用した特許によって保護される検査について、ロイヤルティ無償のライセンスを付与することを申し出ました。しかし、Labradorはそれにとどまりませんでした。3月17日、同社は、Covid-19関連の検査のために自社の特許診断技術を利用するあらゆる第三者に対しても、同様の無償ライセンスを提供すると発表したのです。

Covid-19を検出するための診断検査に取り組むあらゆる第三者に無償ライセンスを提供するというこの申出は、BioFireとbioMérieuxに対してだけでなく、Covid-19に取り組むすべてのバイオ医薬品企業に対して、さらには結局のところ全世界に対しての、寛大で連帯に満ちた回答です。

3月17日に公表されたプレスリリースは、「Labradorは、このパンデミックを評価し終息させるための取組みを全面的に支持し、現在の危機の間、権利使用料無償のライセンスを提供することにより、さらなる検査が開発、普及、利用され、私たちの地域社会が迅速かつ効果的に守られることを期待しています」と説明しています。

Labradorは「パテント・トロール」なのでしょうか。そうかもしれません。とはいえ、特許法の悪しき小鬼とされるこの存在は、パンデミックとのこの闘いにおいて模範を示しました。この模範が他の特許権者を触発し、特許がもはや常に槍玉に挙げられることなく、その本来の姿、すなわちイノベーションを促す誘因として認識されるようになることを願います。

 

本論考はLes Échos紙に掲載されました。

Auteur : Dhenne Avocats.